高崎整体アカデミー講師
「 商業整体」主筆
井上派長押し流整体 施術者
井上 安宅
Inoue Antaku
1990年代後半、地下鉄サリン事件、阪神大震災、渋谷は子ギャルで溢れ、どことなく世の中が浮足立ってた時代、惰性で大学を出て、就職もせずに「夢に生きる」とごまかしながら、東京でぶらぶら自堕落な生活をしている僕がいた。
何もかもが退屈でつまらなかった。夢を叶えても売れず食えず、求人誌をコンビニで買っては短期のバイトを繰り返す生活、何の努力もせずプライドだけは高い、そんな僕に整体師という資格はすごく魅力的にうつった。そして整体学校を出て始めた整体の職場でも腐った、整体でも売れない。
そんなときにサロンに流れてきたのが師匠だった。人として最低の人で、噓を言う、ずるい、金に汚い、卑怯、人に嫌われるすべての要素をもった師匠は、当然スタッフの総スカンをくらった。そんな身持ちを崩した年寄りが店にいれたのは、手技の天才だったからだ。
その時の店は、スタッフで回す無法地帯。癖の強い、上手い奴が集まっていた。辞めた奴が他の店でトップ張ってる噂をよく聞いたし、客も「ここはレベルが違う」と言うような店だった。そこを一瞬で黙らせた。よほどの差を、越えられない壁を見せつけなければそうはいかない。
「どれほどよ」僕も、師匠に酒が入っていなく、機嫌がいい時に施術してもらった。頭がカーっと熱くなり、やがて真っ白になった。世界が違う。センスという、どうしようもない絶望と、ここまで整体はできるのか?という興奮で、パニックになった。
施術も終わりかけた頃、師匠が言った。「ん?オメーわかる奴か?」『で、弟子に!』「嫌だよ、めンどくせえ」そう言って師匠は、当たり前のようにタオル類を一切片づけず出て行った。
師匠が使った長押し流整体とは、関東にあった手わざ療治のひとつである、かもしれない。というのは、師匠には相手を煙に巻いて笑う悪い虚言癖があった。なので以降の文は考察になる。まあ半分、絵空事と思ってもらっていい。
師匠から教わったのは独特の「残り」という圧の使い方だ。暇を持て余した師匠が、手すさびに、断片的に教えてくれたのがこの「残りの手技」である。とても繊細な圧であり、印象的な響きを身体に残す。
「芯を抜け」何度も注意される。特徴的なリズムと姿勢。「押すな!痛い。だからって体重をかけるな!重いんだよ。拇指を潰すな、脳筋かよ?ゴリゴリのほぐししてんじゃねえ…。」
防御反応(身構える)を起こすテンポの速い手技は使わない。速い押圧・減圧は拍動を速くするのでしない。身体に負担をかけるので「無駄押し」をしない(手数を多くしない)。深く指を差し込むのは破壊行為。同じ理由でパン生地のようにしつこく筋肉をこねくらない(揉み返しになる)。
相手が力むので腕力を使わない、足で踏ん張らない、運動筋(表面の大きな筋肉)ではなく、より下層にある姿勢筋(抗重力筋・遅筋)を緩める。術者が息を乱してはいけない。音を立てない。圧は浸透させず繊細に響かせる。
(不快なので)ベッドから弾むような押圧をかけない。
これはあくまで推察である。長押しによって脳に強い印象をあたえ、身体に変化をあたえると思われる。師匠は「速いと脳はついていけない、遅すぎると飽きる」と言っていた。「癒すこと、リラックスさせること。それ以外にねンだよ!」その言葉を思い出す。
強いリラックス(副交感神経)が代謝を良くし、活性化した血行が滋養溢れる血液と酸素、熱を運び、老廃物を排出し基礎体温を上げる。これは僕が補完したものだが、感想と総括すると、いわゆる幸せ系、回復系ホルモンといわれる(オキシトシン)などに強力に働きかけ、覚醒系の脳波に強く関係していると思われる。
――いわゆる根治系のはしりだろう。
“そのために、無防備で相手の心の間合いに入り、息を乱さず、肘を殺し、膝を抜き、汗をかかず、嚙み締めず、
やわらかく歌うように、踊るように、涼しげな笑顔で、ゆったりと施術するのである”(おわり)
八式長押し流整体の考察
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